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ヘルスケア・レストラン別刷「生活背景を観察し介護負担を考慮した提案で在宅患者の体重減少を食い止める」
特集:おいしく物性調整したい!高栄養な嚥下調整食

在宅患者へは、介護者の介護力および生活背景を考慮したサポートが必要となる。加えて、栄養状態が下がっている場合も多く、体重減少をいかに防ぐのかも重要なポイントだ。
そういった問題を抱く在宅患者へ外来・訪問をとおしてかかわる事例を紹介する。

PROFILE

日本歯科大学 口腔リハビリテーション多摩クリニック (東京都小金井市)管理栄養士

尾関麻衣子先生

介護者負担の配慮という、在宅で欠かせない柱

JR東小金井駅のほど近くに位置する、日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックは、同院外来での診療をはじめ、介護保険施設や医療療養施設、訪問診療による在宅サポートなど、地域住民の歯科診療および経口摂取を支えている。

同院では、院長である菊谷武歯科医師の「摂食・嚥下障害の患者の栄養サポートと経口アプローチを行うためには管理栄養士が必要」との考えから、常勤の管理栄養士を開院当初より配置している。同院での外来診療は小児から高齢者まで幅広いが、訪問診療となるのは外来に来るのが難しい高齢者が多い。そんな高齢患者が抱える疾患には、認知症や脳血管疾患、パーキンソン病や進行性の筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)などの神経筋疾患があり、嚥下機能障害のために嚥下調整食を必要としている患者がほとんどだという。

「介護者には、調理経験がないため、軟らかく調理する必要があるような嚥下調整食づくりが困難であったり、就労者で食事の準備が難しいという場合が多いため、介護食品・高栄養食品を取り扱う、『はつらつ』のような通販(食品カタログ)や配食サービスを利用している方が多いですね」

そう話すのは、同院の常勤管理栄養士である尾関麻衣子さんだ。
「食事は毎日のことですから、介護者に負担がかかり過ぎないような配慮が必要となります。『調理ができない』とおっしゃる方に対し、無理に調理法をお伝えしても継続的なものにはなりません。介護者自身も高齢である場合が少なくありませんから、調理能力はもとより、ある程度の時間台所に立つことが可能なのかも考える必要があります。また、おおよその経済的背景も把握しておくことも大切です」

介護者側の事情や意向を汲み取りながら、生活状況などを考慮したうえで、身体的にも経済的にも負担がかかり過ぎない提案を実施している尾関さん。ただ、経済的に食事にあまりお金をかけられないといった場合にも、調理能力や栄養状態から必要だと判断した時には市販されている介護食品などを紹介している。こういった提案は、患者・介護者側の選択肢を増やすためにも欠かせないものだという。

体重減少を防ぎ、穏やかな在宅療養を支える

一方で、市販されている介護食品などだけでは、十分な栄養価を補給することが難しい面もあると尾関さんは話す。

さらに、尾関さんへの介入依頼は、もともと歯科医が歯科診療を行っているなかで「嚥下調整食はどのようにつくればいいのか」「体重が減り続けている」といった声を聞いた歯科医から行われる。後者のケースでは、欠食が続いていたり、一般的な1食分の半量程度を摂取するのが精一杯である場合、かつ、栄養補助食品などの補食もとれてないことなどが原因として上がる。

「すでに栄養状態が悪いところへ介入する場合がほとんどで、『体重が減ってしまったんです』という依頼が来る頃には、重度の低栄養状態になっていることも少なくありません。そういった方々の場合、体重増加というよりも体重減少を食い止めることが急務となります」

最初のアプローチとして、単純に今食べている物の量を増やすことが可能か否かを確認することとなる。しかし多くの場合、茶碗に半量程度のお粥でさえ完食することに苦慮している患者であり、そういった経口摂取の増量による充足が困難な患者、つまり食べる量を増やせない患者に対しては、いかにかさを増やさずに栄養価を上げるかの工夫が必要だ。

「在宅の場では、やはり第一に手に入れやすいかどうかで、付加する食品を選択します。通常の調理であれば、卵やマヨネーズ、バターなどの油脂類や乳製品を中心としたどの家庭にもある物を材料に加えてもらいます。

一方で、普段から介護食品や配食サービスを利用している患者さんに対しては、1品栄養補助食品に置き換えたり、栄養価の高いものから優先して食べるようにお話ししています」

MCTスムージー

〈1人分(約300g)の材料と分量〉

日清MCTオイル ..........12g
野菜ジュース .............100g
調整豆乳 ..................100g
ヨーグルト ................50g
きな粉 ......................5g
バナナ(皮なし) ........50g

〈つくり方〉

①ミキサーにすべての材料を入れ、なめらかになるまで撹拌する
②必要に応じて、とろみ剤(分量外)を添加する

〈栄養成分〉

エネルギー .................290 kcal
たんぱく質 .................8.0g
脂質 .........................18.4g
炭水化物 ....................24.4g

さらに、少量高エネルギーの補給を狙ったものとして、即効性のエネルギーになる「日清MCTオイル(以下、MCTオイル)」(日清オイリオグループ株式会社)を勧めることも多いと言う尾関さん。

通常、量を食べられず体重減少が見られる患者へは、1品減らしてでも、栄養補助食品などで栄養価を付加するよう話をするが、嗜好により甘い物が苦手であったり、毎回同じような味で飽きがきてしまうような方には、このMCTオイルが非常に有用だという。スーパーでも販売しているため、入手しやすく、無味無臭で食事に加えやすい点もメリットだ。

「ご主人が介護をしている、パーキンソン病の70代女性の患者さんに携わった時のことです。ご主人は調理経験がなく、患者さんの食事は配食に頼っていました。しかし、喫食量の低下に伴い体重が落ちていったことで、『体重が減ってきているがどうすればいいかわからない』と相談されました」この患者は肉類の摂取も思うようにできておらず、たんぱく質不足も懸念されていたため、たんぱく質とエネルギーの付加を男性が手を加えやすいお粥で調整することとした。

「もともとお粥はご主人が用意していたため、そこに卵やMCTオイル、魚などの水煮の缶詰を加えてみるようお話ししてみました。ご主人も『それならできそうだ』と、さっそく実践してくださり、患者さんの体重減少は止まり、以降もそれ以上の減少は見られなくなりました」

一方で、お粥へのMCTオイルではうまく喫食につながらない例もあった。

ある脳梗塞後遺症の患者では、当初お粥にMCTオイルを添加していたものの、残すことが多くなったため、相談が尾関さんへ寄せられた。
「お話をうかがってみると、普段デザートや補食にしているヨーグルトやプリンであれば残さずに召し上がるということでしたので、ヨーグルトに添加するようお話ししました。冷めてしまうと多少油っぽさが気になる患者さんもいらっしゃいますから、そういう方であれば温かくて味のしっかりした汁物やおかずに添加するようお勧めしたことで、安定した喫食につながったこともあります」と、尾関さんは振り返り、「在宅で生活している患者さんは、病院・施設のように専門職が常に栄養状態に配慮している環境ではないため、いかに外来時や訪問診療時に栄養状態悪化のリスクを察知し、悪化を予防するかが重要」と話す。

「加えて、当院の患者さんにも多いパーキンソン病やALSのような進行性の疾患では、介入しても最終的には身体機能や栄養状態は低下していきます。しかし、それを止めることは難しくても、管理栄養士が介入することで低下のスピードを緩やかにすることができるかもしれません。患者さんと介護者の穏やかな生活をより長く継続させるためには、療養されている自宅での食事を支援することだと考えています」と、尾関さんは在宅での管理栄養士の責務を語った。

(株)日本医療企画 ヘルスケア・レストラン2017年12月号 別刷

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