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ヘルスケア・レストラン別刷「質の高い給食と栄養管理」Part1
栄養部門のコスト管理について原純也先生に相談しよう!

欧州での戦争や天候不順などの影響により、小麦粉や食用油などの食材費の高騰に加え、原油価格の高騰に伴い、光熱費の値上がりにも歯止めがかからない状況となっている。そうでなくとも入院時食事療養費が25年間据え置きとなっているうえ、慢性的なマンパワー不足も給食経営管理の大きな障害となっている。

この対策として、安易に食材費を削減すれば、給食の質の低下を招き、食事摂取量が低減して入院患者の栄養状態が悪化。それは低栄養に伴う合併症やサルコペニアの進行につながり、在院日数が長期化するなど病院経営にも大きく影響する状況になりかねない。

このようななか、栄養部門はどこにこの状況打開の突破口を見出せばいいのだろうか? 現場の取り組みからその解決について考えてみたい。

PROFILE

日本赤十字社 武蔵野赤十字病院 栄養課 課長 (公社)日本栄養士会 常任理事

原 純也先生

『ヘルスケア・レストラン』トークライブ第3弾レポート 食材費高騰とマンパワー不足 逆風の給食経営をどう乗り切るか?

栄養部門のコスト管理について原純也先生に相談しよう!

7月21日(木)、本誌のオンライン企画『ヘルスケア・レストラン』トークライブが開催されました。

このライブは司会を務める本誌編集長の佐々木修が毎回、栄養領域の最前線で活躍されている専門職の方々をお招きし、視聴者の皆さまからチャットなどで質問をいただき、それに答えるスタイルで進行するオンラインのトークライブです。

今回の第3弾では原 純也氏にお越しいただきました。

テーマは「栄養部門のコスト管理について原純也先生に相談しよう!」。
食材費の高騰に歯止めがきかず、慢性的な厨房スタッフのマンパワー不足に悩む管理栄養士の方々が多いなか、そうした悩みに対して的確に、時にユーモラスにご自身の経験を踏まえながらご回答いただきました。

ここではこのライブでいただいた質問の数々を再構成し、レポートとして紹介します。

入院時食事療養費の枠内でなく、病院経営全体から部門運営を

最初にズームミーティングの投票機能を使って視聴者の皆さんにアンケートにお答えいただきたいと思います。

皆さんの職種を教えてください。
「管理栄養士」86%、「栄養士」0%、「学生」7%、「その他」7%ですね。

では、皆さんの所属を教えてください。
「病院」68%、「給食受託会社」3%、「高齢者施設」11%、「養成校」8%、「その他」10%ですね。

次に給食経営方式をお願いします。
「直営」22%、「一部委託」28%、「完全委託」36%、「不明」14%ですね。

では、給食運営方式をお願いします。
「主にクックサーブ」68%、「主にクックチル」9%、「主にニュークックチル」5%、「主にセントラルキッチン」2%、「その他」12%、「不明」4%ですね。ありがとうございました。

以上から、皆さんの多くは病院の管理栄養士であり、給食経営方式は「直営」「一部委託」「完全委託」が均衡、給食運営方式は多くがクックサーブということですね。この結果に基づきながらお話ししていきましょう。

入院時食事療養費(Ⅰ)については、1997年の消費税率引き上げに伴う臨時の診療報酬プラス改定において1日当たり1900円から1920円に引き上げられましたが、2006年に1日当たりから1食当たり(640円)に見直されて以降、25年間据え置かれています。食材費が高騰している今、なぜ入院時食事療養費が見直されないのかという疑問をもつ方は多いかと思います。それについて私なりに回答します。

20年ほど前の医療は、「出来高払いの物品販売業」でした。つまり、薬剤や検査などを売ればそれだけ収入になったのです。栄養部門も同じです。当時の管理栄養士は厨房で食事という「物」を売っていたのです。しかし現在、医療は物品販売業から患者さんに必要な技術を提供するサービス業へと変化しました。そのなかで管理栄養士も食事を売るだけでは成り立たないようになりました。そのため、入院時食事療養費という「物」の評価だけでなく、病棟や外来で行う栄養管理という「技術」が評価される時代になったのです。

厚生労働省は「医療経済実態調査」などをもとに医療全体を俯瞰したうえで診療報酬改定を行っています。入院時食事療養費もその一環にあります。この加算のみで栄養部門の収支を考えるのではなく、病院経営全体を見据えた栄養部門の経営を考えるべきだと思います。

令和4年度診療報酬改定では、入院栄養管理体制加算や周術期栄養管理実施加算の新設、早期栄養介入管理加算の見直しなど、管理栄養士の病棟業務を評価する体制が強化されました。これにより管理栄養士は今後、病棟業務が業務の大半を占めることになるでしょう。この業務を遂行するためには、給食業務を完全委託化し、病棟に出るための土台を固めることがポイントとなります。

ではここで再び皆さんに質問です。厨房従事者と栄養事務従事者との関係はいかがでしょうか?
「仲がいい」55%、「仲が悪い」2%、「どちらでもない」33%、「その他」10%ですね。

では、厨房従事者と栄養事務従事者とで定期的なミーティングがありますか?
「ある」73%、「ない」14%、「その他」8%、「不明」5%ですね。
「仲がいい」「定期的なミーティングがある」の回答が思っていたより多く安心しました。

給食委託会社との信頼関係がないと管理栄養士が病棟へ出るための土台づくりは困難です。信頼関係の構築の第一歩はまず相手を知ること。私は当院において給食委託会社の方々に対し、給食業務のどこが大変なのか、それを改善するために何を望んでいるのか、

本音で話し合う機会を大切にしています。本音で話し合わなければ、信頼関係を築けません。信頼関係がないとこちらの要望も聞いてもらえず、結果的に給食の質の低下を招きます。当院では現在、管理栄養士を病棟配置させるため、給食業務を完全委託化していますが、それが可能になったのも給食委託会社と密に話し合い、問題点を解決してきたからだと思います。

給食委託会社の方々は大切な患者さんの給食を調理する使命を担う、私たち管理栄養士の大事なパートナーです。今後、栄養管理にかかわる数々の加算を算定していくうえでこの原点を決して忘れてはならないと考えています。

給食の質を落とさず、栄養管理の質を高める知恵

高騰する食材費やマンパワー不足のなか、食材費の支出を削減するだけでは、給食の質の低下を招いて患者さんの食欲が低下、栄養状態の悪化につながりかねません。そこで提案したいことが無駄の削減です。たとえば私は昔、1食当たりの食費を70円削減するように病院経営側から要請されたことがありました。1食につき70円というのは相当な金額です。しかしその時、私は米を無洗米に切り替えることで難局を乗り越えたのです。無洗米に切り替えれば、洗米に要する水道費がかからなくなります。また、洗米にかかるマンパワーを削減することもできます。さらに洗米時にこぼれる米の無駄、洗米機で破損して廃棄する米についても削減可能です。結果、月額30〜40万円を削減することができました。

また、嚥下調整食についてもコスト削減に成功しました。当院が給食業務を一部委託していた時の話です。以前は嚥下調整食を管理栄養士が手づくりしていました。ご存じのとおり、嚥下調整食は物性調整の工程が複雑であり、その調理に従事するスタッフの負担が大きくなっていました。これを市販のユニバーサルデザインフード(UDF)に切り替えることにしたのです。結果、管理栄養士1人当たり1日4・5時間の効率化が可能となりました。たとえば、この時間を栄養指導に充てると、管理栄養士1人当たり1日4件となり、仮に4人として1カ月(20日稼働)で80件。初回者のみの指導と換算すれば月20万8,000円の増収です。2回目以降の指導としても月16万円の増収。UDFの単価を考慮しても、その導入メリットは大きいのです。

また、UDFであれば即日消費が原則の生鮮食品よりも長期保存が可能であり、廃棄コストの削減につながります。さらにこのメリットは、食中毒や感染、災害における事業継続計画(BusinessContinuityPlanning:BCP)の観点からも有効となります。

さらに当院でもう1つ、給食の質を落とさずにコスト管理している取り組みがあります。それは、中鎖脂肪酸油(MediumChainTriglyceride:MCT)の導入です。MCTはココナッツやパームフルーツに含まれる植物成分です。一般的な調理油は、炭素鎖14以上の長鎖脂肪酸油(LongChainTriglyceride:LCT)ですが、MCTの炭素鎖はLCTの約半分と短く、リンパ管を経ることなく、消化管から門脈を経て肝臓に入り、エネルギーとして素早く代謝されます。そのため高齢者の低栄養改善目的に使われるようになっています。

また、MCTを摂取することで胃から分泌されるホルモンであるグレリンの活性化が期待できます。グレリンは食欲向上を促す働きを有するホルモンです。食欲不振で低栄養のリスクのある患者さんに提供することでそのリスク管理に役立てられる可能性があります。MCTオイルは透明で無味無臭であるため、料理や飲料に混ぜるだけで簡単にエネルギーアップを図ることが可能です。そのため当院では、食欲不振の方向けに提供している全粥食や全粥ハーフ食のお粥にMCTオイルを添加し、エネルギーアップと食欲向上を図っています。

MCTオイル導入以前、全粥ハーフ食対象の方にはエネルギーアップのため、栄養補助食品を付加していました。しかし、食事をハーフ量にしたのに、そこにわざわざ栄養補助食品を付加することに対し、私には何か割り切れない思いがありました。また、栄養補助食品の場合、同じ味が続くと患者さんが飽きるため、味のバリエーションを揃えておく必要があり、それが賞味期限を過ぎると、廃棄しなければならない在庫リスクを抱えていました。

MCTオイルは、出来上がったお粥に混ぜるだけでエネルギーアップできますので、栄養補助食品の在庫リスクの問題が解決できます。しかも、料理の味も匂いも変わらないので飽きることもありません。MCTオイルを導入した結果、それまで50〜80%だった食事喫食率が75〜100%に向上しました。また、栄養補助食品からMCTに切り替えたことで患者さん1人当たり月5,850円、栄養課全体で年間約350万円のトータルコスト低減につながりました。

令和4年度診療報酬改定で、地域包括ケアシステムについてはその体制構築が完了したと考えています。一方、22年7月21日現在、新型コロナウイルス感染患者は増加の一途を辿っており、パンデミックの発生から2年半が過ぎた今もなお、収束の気配がありません。次回の診療報酬および介護報酬のダブル改定では、この感染症対策において管理栄養士はどう貢献可能なのか、それが問われる内容になるのではないかと考えています。

また、24年4月から「医師の働き方改革」が医療現場に適用となります。この改革において管理栄養士がどう貢献できるのかも改定のポイントとなるでしょう。こうした期待に応えるためには、臨床栄養管理の知識とスキルだけでなく、給食管理を含めた栄養部門全体のマネジメントスキルが問われることになるのではないでしょうか。今回、このトークライブで紹介した取り組みがそのスキルアップの一助になれば幸いです。

実際、MCTの添加によって、栄養状態が改善したケースがある。患者は、78歳の男性。22年5月に脳梗塞を発症し、左片麻痺と嚥下障害があった。術直後は、経腸栄養法が施行されていたが、同年6月初旬より嚥下評価後に経口摂取を進めていた。医師による嚥下内視鏡、看護師・歯科衛生士による口腔ケア、言語聴覚士による嚥下機能訓練、管理栄養士による食事調整を行い、嚥下調整食も次第にステップアップしてきていた。脳梗塞発症前には、体重が70㎏前後あったようであるが、発症後2カ月で8.5㎏減少していた。「リハビリを行うためにもエネルギーアップが必要である」とカンファレンスでの結論となった。現状の同院の嚥下調整食(1,400kcal/日)を平均50%程度摂取していたため、主食のお粥にMCTオイル(全粥100gに対しMCTオイル6g)を添加してエネルギーアップを図った。リハビリも順調に進み、体重も4・3㎏増加し、嚥下障害は残存していたがリハビリテーション病院に転院となった。
「当院では2年ほど前にMCTの添加を始めて以降、提供した食事の摂取量が2〜3割増加した印象があります。実際、残食は減っています」

宮澤科長が残食について調べたところ、ある5つの病院における1日の残食量は合計1.6tにも及んでいたという。その処理料金は病院経営にとって大きなデメリットであるだけでなく、食材費が高騰し続ける今、少しでもコストを抑えるために残食を低減しなければならない、と宮澤科長は言う。
「残食が多いということを、嗜好の問題だけで片付けられません。それは食事摂取不良を反映した結果であり、患者さんの栄養状態に大きく影響しているはずなのです。なぜ食べられないのか、どうしたら食べられるのか、これは栄養管理における大切な課題です。私たち管理栄養士はこの問題にしっかりと向き合い、解決に取り組んでいかなければなりません」

(株)日本医療企画 ヘルスケア・レストラン2022年9月号 別刷

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