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【後編】栄養強化によるADL改善のエビデンスが、嚥下調整食加算の道を拓いたーNTT東日本関東病院ー
~緻密なデータ収集とMCTオイルの活用で実現した質の高い食事提供~

前編はこちらから

前編では、嚥下調整食のエネルギー不足という課題と、その解決に向けた研究計画・多職種の協働体制づくりをご紹介しました。後編では、MCTオイルを活用した具体的な栄養強化の方法と、ADL改善という成果をお伝えします。

エネルギーの底上げにMCTオイルをはじめとする油脂を活用

MCTオイルは味や色も変わらず、患者さんも食べやすい

2022年の導入開始からは、食事量を増やさずに栄養価を上げるために、主食、主菜、副菜、デザートに油脂やプロテイン粉末を添加し、栄養強化しています。中でも少量でも効率よくエネルギー摂取でき、消化吸収に優れたMCTオイルは基本となる油脂です。味や色が変わらず、胸やけや胃もたれがしにくいという声もあり、患者さんも抵抗なく召し上がっています。

エネルギーを安定的に底上げするため、毎回提供する主食のおかゆにMCTオイルを添加しています。1食あたりおかゆ180gに対してMCTオイル5g(1日15g)を基本とし、他の油脂やプロテイン粉末を組み合わせることで、食事全体のボリュームをほとんど増やさずに1日あたり約400kcalの底上げを実現しました。MCTオイルは栄養強化嚥下調整食の強い味方になってくれています。

<NTT東日本関東病院の具体的な栄養強化方法>

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平均食事重量は導入前より25g増えただけですが、どの栄養素も大幅に増えています。写真はすべて昼食のメニューです。ここではコード3とコード2のメニューをご紹介します。

嚥下調整食 コード3

献立:(左下から)粥ゼリー、チキンカレー、ブロッコリーサラダ、リンゴゼリー、お茶ゼリー

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1食あたりの栄養量:エネルギー570kcal たんぱく質16.9g 脂質23.8g 炭水化物75.3g 食塩相当量1.61g MCTオイル:粥5g

嚥下調整食 コード2

献立:(左下から)粥ゼリー、チキンカレー、ブロッコリーサラダ、リンゴゼリー、金時豆、お茶ゼリー

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1食あたりの栄養量:エネルギー635kcal たんぱく質26.1g 脂質20.9g 炭水化物81.9g 食塩相当量1.62g MCTオイル:粥5g

効率化と物性の安定のために既製品も利用

一人ひとりの患者さんに対応したものを作るには時間と手間がかかります。そこで調理師の負担軽減と物性の安定、急な食数変更への対応策として一部の既製品を献立に入れています。既製品はそのまま使うこともありますが、栄養量が足りない場合は、MCTオイルを直接塗ったり、MCTオイルやプロテイン粉末入りのソースやあんをかけるなどして栄養価を上げています。

試作と改善を繰り返し、たどりついた栄養強化嚥下調整食

栄養強化嚥下調整食の完成のために、委託会社と病院が一体となって、栄養価や物性の統一、食材費の調整をしながら、試作と改良に1年ほどかけました。

プロテインの粉末を加えるとかたくなる、ゲル化剤でかためるものも食材に含まれる水分量によってかたまり具合に違いが出てくる、素材が生か冷凍かによっても物性に違いが出てくる、プロテイン粉末を加えて加熱するとバラバラになってしまう……。とくに添加するプロテイン粉末の割合を調整するのに苦労しました。メーカーが提供してくれるレシピもありましたが、そのとおりに作ってもなかなか求める物性にならなかったりしました。一工程増えるだけでも全体の工程に影響が出て、調整が必要になることも日常茶飯事。既製品を含め、特殊な素材が増えるので在庫管理の見直しも必要になりました。

導入後、患者さんのADLの改善が見られた

導入時に計画した臨床研究によって、栄養強化嚥下調整食の確かな効果が実証されました。栄養強化嚥下調整食の導入前と導入後を比較すると、食事のボリュームはほぼ変えていないのに、1日あたりの平均提供栄養量は、エネルギーが1,200kcal→1,600kcal、たんぱく質が45g→57gと大幅にアップしました(Ueshima J, et al. J Am Geriatr Soc. 2025;73(7):2290-2293)。

さらにこのデータを基に行った65歳以上の脳卒中による嚥下障害患者を対象とした調査では、患者さんに栄養強化した嚥下調整食を食べ続けてもらったところ、食事のボリュームを維持したまま1日あたりのエネルギー摂取量が約200kcal増加し、ADLの改善が見られました。入院中の体重減少についても、抑制の傾向が認められました。エネルギー摂取量とADLの改善度(Barthel Index利得)はいずれも統計的に有意な差が認められ、栄養強化した嚥下調整食が患者さんの回復に寄与することを示すことができました。安全に食べられることに加えて、必要な栄養量を満たす嚥下調整食が求められていることの裏付けだと上島さんは考えています。

メッセージ

患者さんのADLを改善させる嚥下調整食に

摂食嚥下機能が低下すると十分な食事摂取が難しくなり、体重減少や筋肉量の低下、さらには低栄養を招きます。そこでエネルギーやたんぱく質を強化した嚥下調整食をおいしく食べていただくことで、患者さんの身体機能やADLの改善が期待できると上島さんは考えています。医療の目的は患者さんのQOLとADLを向上させることにあります。患者さんが早く元気になれば、医療コストの削減にも寄与するはずです。

できることから始めてみて

今回の特別食加算(嚥下調整食)は、自分の施設が患者さんにどのような嚥下調整食を提供しているのか、また患者の食をどのような体制で評価し、サポートしているのかを見直すよい機会です。加算の要件には多職種によるミールラウンドに加え、医師の食事箋に基づく提供や、実習を伴う所定の研修を修了した自院の管理栄養士を責任者として配置することも含まれています。いろいろな人がかかわらないと加算は難しくなります。まずは自ら患者さんのベッドサイドに行き、食べている様子や今の食事内容が適しているのかを観察することから始めましょう。そして患者さんの声をしっかり聞いてください。自分が見聞きしたものを他職種の人たちや調理担当者などに伝え、一緒に食事の改善を目指していきましょう。患者さんの回復のために栄養管理は重要で、管理栄養士はそれを担う役割であるため、その責務を果たしましょう。

嚥下調整食の栄養強化については、まず最初に手軽にさまざまなメニューに使えるMCTオイルの添加から始めることをおすすめします。主食に添加すれば安定的にエネルギーを上げることができますし、副菜やスープなどへの添加もおすすめです。質の高い嚥下調整食の提供には多少時間はかかりますが、いろいろな献立において試食を繰り返すことが大切です。

食物繊維をどう添加していくかが課題

今後もよりいっそう少量で栄養量を満たす嚥下調整食を作り、患者さんに提供していきたいと上島さんは語ります。嚥下調整食を摂取する脳血管障害の患者さんや高齢者では、便秘も問題となりがちです。嚥下調整食はどうしても食物繊維が不足しがちですから、それをどう添加するのか、上島さんたちの挑戦はまだまだ続きます。

施設DATA

NTT東日本関東病院

〒141-8625 東京都品川区東五反田5丁目9-22

1952年に前身の関東逓信病院が開院。当初は日本電信電話公社の職域病院であったが、1986年より保険医療機関の指定を受け、一般に開放された。「人と、地域と、つながる医療」をモットーに地域連携を大切にしながら、急性期治療を担う総合病院としてさまざまな病気に対応。また地域がん診療連携拠点病院として、がんの診断治療に最新の設備と医療技術で対応している。救急科、総合内科、国際診療科、循環器内科、心臓血管外科、脳神経外科、高血圧・腎臓内科、消化管内科、心療内科など診療科は38。脳卒中センター、人工関節センター、ロボット手術センターなど16のセンターを併設している。594床(一般病棟544床・精神病棟50床)。特別食加算(嚥下調整食)の算定開始時期は2026年6月。以降、継続して算定している。

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