令和8年度の診療報酬改定において、嚥下調整食が特別食加算の対象として新設されました。特別食加算(嚥下調整食)の対象として示された「おいしく安全な食形態で適切な栄養量を有する嚥下調整食」を実現するには、単に食形態を整えるだけでは不十分です。安全に食べることができ、かつ、食べきれる提供量の中で栄養量を確保しながら、満足感も得られるような食事である必要があります。今回は、全国調査データと病院での実践例をもとに、嚥下調整食の主な課題と具体的な対策について整理します。
PROFILE

NTT東日本関東病院 栄養部 医療技術主任
上島 順子先生
嚥下調整食は、摂食嚥下機能が低下した患者の食事を支える重要な食事形態です。その一方で、大きな課題も存在します。
ひとつは、食事としての課題です。物性変化による嗜好性の低下が挙げられます。見た目や味が変わることで食事の満足度が損なわれ、食欲不振につながる可能性があります1)。
また、食材をやわらかくするために水分を加えることで食事の絶対量(かさ)が増加し、完食が困難になりやすく、加熱・加工によって栄養価そのものも低下しやすいことも懸念されています1)。
もうひとつは、提供する施設側の課題です。ミキサー調理やゲル化、粘度調整など摂食嚥下機能の段階によって調理工程が複雑になる場合があり、通常食に比べて調理の手間や時間がかかります。さらに、見た目やおいしさを保つ工夫も求められます。また、嚥下調整食の提供には調理担当者の知識や技術のばらつき、調理工程の増加による人手不足、物性評価が目視などの経験に依存しがちであることなども課題とされています2)。
このように嚥下調整食は飲み込みやすさへの配慮だけでなく、栄養価、品質管理、調理負担といった複数の側面からの改善が求められます。
嚥下調整食では、食塊をまとまりやすくしたり飲み込みやすくしたりするために、食材に水分を加えて硬さや粘度を調整します。ただし過度な加水は栄養密度を低下させ、エネルギーやたんぱく質が不足しやすくなります。
全国の医療機関を対象とした調査2)では、嚥下調整食の1日あたりのエネルギー量の中央値は600~1400kcal、たんぱく質量の中央値は20~60gでした。特に日本摂食嚥下リハビリテーション学会の嚥下調整食学会分類(学会分類)においてコードが低い食形態ほど栄養量が少ない傾向が報告されています。また、不足する栄養素を補うために経口栄養補助食品の併用に頼っているのが現状です。課題解決のための実践的アプローチ、つまり「食事内容そのものを工夫することによる栄養強化」はまだ十分に行われていない実態も明らかになっています。
「食べきれる量」で必要な栄養量を満たすためには栄養補助食品だけでなく、油脂やプロテイン粉末を活用して「食事そのものの栄養を強化する」方法が重要になります。
そこで当施設では、食事のボリューム(かさ)を大きく増やすことなく、主食・副食・デザート等の食事全体の中で栄養密度を高める「栄養強化嚥下調整食」を導入しました。
【栄養強化嚥下調整食の工夫例】
こうした油脂や粉末の活用は非常に有効だと考えられますが、一方で調理現場の負担増加も考慮しなければなりません。そこで当施設では、負担軽減と品質の安定化を両立させるために、「市販の嚥下調整食品(ペースト状食材や半調理品)」の活用も積極的に取り入れています。調査でも、約7割の施設が市販食品を導入しており、「調理時間の短縮」「物性が常に一定」といったメリットを感じていることが分かっています2)。これらをうまく組み合わせることで、調理現場の負担を大きく増加させず、栄養強化嚥下調整食を導入できました。
摂食嚥下機能の低下は低栄養や身体機能低下と密接に関連しています1)。当施設で実施した栄養強化嚥下調整食の介入では、嚥下障害を有する高齢脳卒中患者を対象に、食事のボリュームを維持したまま1日のエネルギー摂取量を約200 kcal増加させることができ、その結果、機能回復や日常生活動作(ADL)の改善につながりました3)。
嚥下調整食では「おいしく、楽しく食べられること」も重要な視点です。見た目や香り、味付けの工夫は食欲の維持・向上につながり、結果として摂取量の確保や低栄養予防にも寄与します。単に形態や栄養価を整えるだけでなく、食事の満足感にも配慮した提供が求められます。
嚥下調整食は単なる学会分類に沿った食形態の調整にとどまらず、栄養管理の視点からの評価・見直しが不可欠です。食形態を整えても栄養密度が低下すれば、エネルギーやたんぱく質の摂取不足を招き低栄養のリスクが高まります。そのため管理栄養士・栄養士は、摂取量や体重、栄養状態の変化を継続的にモニタリングし、必要に応じて栄養強化や食事内容の調整を行う必要があります。医師、看護師、言語聴覚士、介護職など多職種と情報を共有しながら、摂食嚥下機能や食事状況を定期的に評価することが、適切な栄養量の確保につながります。
嚥下調整食は患者さんの食べる喜びと安全を支える大切な食事ですが、加水による量の増加や栄養密度の低下、調理負担の増加といった課題もあります。しかし、今回の診療報酬改定を機に、安全性だけでなく「食事としての満足度」や「栄養密度」にまで踏み込み、患者さんのADL改善に寄与する質の高い栄養管理を展開するチャンスが来ているといえます。今後は食形態だけでなく、栄養密度や実際の摂取量にも配慮した栄養管理が重要です。管理栄養士・栄養士を中心に多職種で連携し、摂食嚥下機能や栄養状態を継続的に評価することが、安全性と栄養量確保の両立につながると考えます。
監修:NTT東日本関東病院 栄養部 医療技術主任 上島 順子先生
同志社女子大学 生活科学部食物栄養学科 管理栄養士専攻を卒業後、明治国際医療大学附属病院、大津赤十字病院、海老名総合病院を経て、2013年よりNTT東日本関東病院 栄養部に勤務。2023年には愛知医科大学大学院 医学研究科 緩和・支持医療学にて博士号を取得し、臨床と研究の両面から栄養管理に取り組んでいる。
1) Ueshima J, et al., Journal of the American Medical Directors Association, 23(10): 1676–1682 (2022).
2) 上島他, 日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌, 28(2): 67–78 (2024).
3) Ueshima J, et al., Journal of the American Geriatrics Society (2025). Doi 10.1111/jgs.19468.
嚥下機能が低下した方への安全な食事提供と情報共有の「共通言語」として、「日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類」が策定されました。他の分類基準との違いを理解し、現場で適切に使い分ける重要性を解説しています。
嚥下調整食について、解説しています。嚥下調整食は、加齢や疾患で嚥下機能が低下した方でも飲み込みやすいよう工夫された食事です。「学会分類2021」等の基準に基づき、とろみや硬さを調整します。
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