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【前編】栄養強化によるADL改善のエビデンスが、嚥下調整食加算の道を拓いたーNTT東日本関東病院ー
~緻密なデータ収集とMCTオイルの活用で実現した質の高い食事提供~

2026年(令和8年)6月の診療報酬改定にて特別食加算の対象に「嚥下調整食」が追加されました。この加算新設において、厚労省の審議で大いに参考にされたのが「NTT東日本関東病院」の栄養強化の取り組みと臨床データです。本記事では、加算算定のモデルケースとなる同院の栄養強化の実践をご紹介します。

お話をうかがった方

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上島 順子さん NTT東日本関東病院 栄養部医療技術主任(写真右)

豊島 瑞枝さん NTT東日本関東病院 栄養部(写真左)

NTT東日本関東病院は、高度急性期・急性期医療を担う総合病院。高度急性期医療、先進医療、がん医療を強みとし、地域医療支援病院・紹介受診重点医療機関として多くの病院や診療所と連携しています。

NTTグループの病院という背景もあり、DX/ICTを積極的に活用した医療連携を進めていることも特徴です。

栄養部は中央診療部の一部門として、食事や栄養から病気の治療・回復・合併症の予防を目指すという重要な役割を担っています。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、栄養サポートチーム専門療法士、臨床栄養士などの専門性の高い管理栄養士が在籍し、栄養スクリーニング、アセスメント、アセスメントに基づいた栄養介入、モニタリングを実施しながら患者さんの「食べる」を多方面からサポートしています。

嚥下調整食の提供は1日約120食、1回約40食(直近半年間の平均)。献立は嚥下調整食独自の展開です。嚥下調整食を提供している疾患は脳血管障害、頭頸部の術後、高齢の患者さんが多く、日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021(以下、学会分類2021)のコード0~4を提供しており、中でもコード3と4が中心です。

加算の評価対象の「適切な栄養量を有する嚥下調整食」には程遠い現状

嚥下調整食を食べている患者さんの体重が減っている!?

上島さんが栄養強化嚥下調整食の導入に関心をもつようになったのは、以前勤務していた病院で、NST専従管理栄養士として患者さんの栄養管理や摂食嚥下をサポートしていたころに遡ります。嚥下調整食を全量摂取しているにも関わらず、入院中に数kg単位で痩せていく患者さんを多数経験し、「嚥下調整食はエネルギーが低い」というところにたどりつきました。それらの患者さんには必ず経口栄養補助食品を付加しなければならず、残食につながることもありました。

嚥下調整食でとれるエネルギーは1,200kcal程度

院内の嚥下調整食の栄養価について詳しく調べてみたところ、提供していた嚥下調整食の1日のエネルギーは1,200kcal程度。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」(厚生労働省)によると、健常者の場合、75歳以上の推定エネルギー必要量は身体活動レベル「低い」で女性が1日1,450kcal、男性が1,850kcalですから、体重維持どころか、長期間続けていると体重減少に陥るほどのエネルギー不足と言えます。上島さんらの研究グループが2024年に報告した全国の病院の栄養管理部門を対象とした実態調査(日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌 28(2):67-78, 2024)でも、嚥下調整食の1日あたりのエネルギー量は中央値で600~1,400kcalにとどまり、一般的に提供されている常食に比較してもかなり低いということがわかっています。さらに約9割の病院が、自院の嚥下調整食の栄養価は不十分であるという課題意識をもっていることも分かりました。このように嚥下調整食のエネルギー不足は多くの病院が抱える課題であったのです。

栄養強化嚥下調整食導入に向けた研究計画とプロジェクト

嚥下調整食導入のための研究計画を立てる

2013年に上島さんが同院へ着任した当時も、提供される嚥下調整食の栄養価は低い状況でした。2016年に摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の認定資格を取得し、摂食嚥下障害者の栄養ケアについてより深く考えるようになったといいます。嚥下調整食を全量摂取しても体重が減少してしまうため、経口栄養補助食品を必ず付加しなければならないことを経験し、食事そのものの栄養強化を決意しました。

せっかく導入するなら、その臨床的な効果もしっかり検証したいと考え、綿密な研究計画を立て、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の研究助成金を得ながら、研究を遂行しました。また、同時期に摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の方と全国の病院で提供されている嚥下調整食の実態調査も実施しました。この全国病院実態調査と、同院での栄養強化嚥下調整食のエビデンスは、2026年(令和8年)の診療報酬改定において嚥下調整食が特別食加算の対象に組み込まれるための根拠として採用されました。今回、「おいしく安全な食形態で適切な栄養量を有する嚥下調整食」が加算要件となったことは、摂食嚥下障害者への栄養ケアの重要性が広く認識された結果ととらえており、大変うれしく感じていると上島さんは語ります。

委託会社や言語聴覚士(ST)を巻き込んでプロジェクトを立ち上げる

栄養強化嚥下調整食の導入に向けて、同院では2021年にプロジェクトを立ち上げました。そのプロセスは下記のとおりです。

<栄養強化嚥下調整食導入までの道のり>

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委託会社の全面協力があってこそ実現した質の高い嚥下調整食

会議や勉強会への参加、そして試作と改良を繰り返して

同院では給食委託会社に全面委託しています。委託会社との関係は良好で、栄養強化嚥下調整食の導入についても病院側の依頼を理解して協力してくれました。最初に委託会社と病院側の管理栄養士とともに、学会分類2021のコード2・3・4を栄養強化の対象と決め、栄養価や物性の統一、食材費の調整を行いながら試作と改良を繰り返しました。

委託会社の管理栄養士や調理師も病院主催の勉強会に参加してくれ、言語聴覚士から嚥下調整食を作る際の食材の選び方や物性などの注意事項を理解してもらいました。委託会社内の研修ビデオなどもあったそうですが、実際の調理現場では異なる部分も多いため、病院側の希望を正確に反映できるよう、現場に即した調理法や工程を再確認するプロセスを大切にしました。

物性の安定のために苦労を重ねて

ただし、学会分類コードに沿った物性を試作してもらうときにはなかなか物性が安定せずに委託会社に苦労をかけたそうです。また調理の工程がひとつ増えるだけで全体の流れを変更する必要が出てくるなど作業工程にも関係する課題も出てきました。

栄養強化嚥下調整食の導入後も月1回、委託会社と病院側の管理栄養士、栄養士、調理師で献立会議を開いて、献立の見直しや試食を繰り返しています。物性の安定と食べやすさは、委託会社が作った調理作成マニュアルによって維持することができています。さらに、以前は毎日は行っていなかった検食を、現在は病院と委託会社の管理栄養士が毎日行い、物性をチェックしています。

委託会社は検食によるフィードバックはもちろん、多職種や患者さんからの意見にもきめ細かく対応してくれています。病院の管理栄養士が参加した外部研修会などで新しい既製品を仕入れてくると、それを使って新しいメニューの試作品を作り、一緒に試食するなど、お互いに壁を作らず風通しの良い関係とのことです。

委託会社からの要望にも対応。感謝を言葉に

もちろん病院側からの要望だけではなく、委託会社からも仕入れる食材の高騰や不足、人員体制など、課題については忌憚なく伝えてもらい、病院側と一緒に打開策を検討しています。そして良好な関係構築において忘れてはならないのは、委託会社の方への感謝の気持ちです。栄養強化嚥下調整食の導入を実現できたのは委託会社の協力のおかげです。「患者さんがおいしそうに食べていた」「それまで残していた人が完食できた」などの良い情報を感謝の言葉を添えて伝えるようにしています。それも委託会社の方と良好な関係を築くためのコツかもしれません。

多職種連携のベースは頻繁なコミュニケーション

“患者さんに食べてもらうために”という共通の目的をもって

2022年の導入前から、嚥下調整食はマイナーチェンジを重ねてきました。その試作段階から言語聴覚士にも試食してもらい、物性についてアドバイスをもらっていました。言語聴覚士は委託会社との勉強会でも講師をつとめてくれるなど、栄養強化嚥下調整食を一緒に改善してきたパートナーです。

同院では、管理栄養士、言語聴覚士をはじめとしたリハビリスタッフは病棟担当制です。幸いどの職種も栄養に対する関心が高く、“患者さんに食べてもらうために”という共通の目的をもっています。もともと患者さんについて気づいたことがあれば報告し合う土壌もあり、栄養強化嚥下調整食を導入するためにいろいろデータをとりたいと伝えたときも快く協力してくれました。

加算要件のミールラウンドに対応してカルテを1本化

週1回のミールラウンドでは、摂食嚥下障害看護認定看護師と摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、病棟の言語聴覚士と3職種でまわっています。ほかのスタッフも適宜自分のタイミングで患者さんのもとを訪れて、患者さんの状態を確認して患者さんの情報をカルテに集約しています。今回の診療報酬改定で多職種によるミールラウンドが要件になったことで、職種によってバラバラに記入していたカルテを患者さんごとに1本化したのでより情報を把握しやすくなりました。

軒下会議で得た情報も管理栄養士に集約

ミールラウンドで得た情報は、週1回多職種によるカンファレンスで情報共有しています。とはいえ、実際の情報交換は病棟内ですれ違ったりするタイミングなどでも頻繁に行われています。いわゆる「軒下会議」で得た情報であっても必要に応じてすぐに管理栄養士が集約して厨房と連携する体制が整っています。また管理栄養士と看護師、言語聴覚士とは頻繁に電話で情報交換するなど、こまめにコミュニケーションをとることが多職種連携のベースになっています。

後編はこちらから

こうして整えた体制のもと、同院は具体的な栄養強化へと踏み出します。その中心となったのがMCTオイルの活用です。その中身は後編でご紹介します。

施設DATA

NTT東日本関東病院

〒141-8625 東京都品川区東五反田5丁目9-22

1952年に前身の関東逓信病院が開院。当初は日本電信電話公社の職域病院であったが、1986年より保険医療機関の指定を受け、一般に開放された。「人と、地域と、つながる医療」をモットーに地域連携を大切にしながら、急性期治療を担う総合病院としてさまざまな病気に対応。また地域がん診療連携拠点病院として、がんの診断治療に最新の設備と医療技術で対応している。救急科、総合内科、国際診療科、循環器内科、心臓血管外科、脳神経外科、高血圧・腎臓内科、消化管内科、心療内科など診療科は38。脳卒中センター、人工関節センター、ロボット手術センターなど16のセンターを併設している。594床(一般病棟544床・精神病棟50床)。特別食加算(嚥下調整食)の算定開始時期は2026年6月。以降、継続して算定している。

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