前回は、「また来たい」と思ってもらえる栄養指導をテーマに、患者さんとの信頼関係の築き方や、継続的な支援のコツをご紹介しました。
栄養指導では、栄養学や病態、ガイドラインなどで学んだ知識を、患者さん一人ひとりに合わせて生かしていくことが求められます。そうはいっても、実際の現場では、「目の前の患者さんには、どうしたらよいだろう」と迷う場面もあるのではないでしょうか。
そこで今回は、前回に引き続き、管理栄養士の広瀬歩美先生に、実際の栄養指導で経験した3つの事例をもとに、現場での対応のヒントや工夫についてお聞きしました。
これまで多くの患者さんとお話ししてきた中で、今でも印象に残っている言葉があります。初めてお会いした患者さんに、過去の栄養指導について伺ったときのことです。
「理想的な食事は教えてもらいました。でも、それができていたら、そもそも太っていないんですよ。」
この言葉を聞いて、「理想的な食事を知っていること」と、それを「実際の生活の中で続けられること」は別なのだと、改めて実感しました
管理栄養士が学ぶ栄養学や病態、食品、薬、ガイドラインなどの知識は、栄養指導に欠かせない大切な基礎です。しかし実際の指導現場では、その知識を患者さん一人ひとりの生活や価値観に合わせて応用していく必要があります。
では、そうした基礎知識と患者さんの実際の生活との間にあるギャップを、どう埋めていけばよいのでしょうか。今回は、これまでの栄養指導で経験した3つの場面から考えてみたいと思います。
※本記事で紹介する事例は、個人が特定されないよう、内容の一部を変更しています。
栄養指導では、「ここを変えられたら、もう少し数値が改善するかもしれない」と考えます。でも、患者さんがいつもその通りに行動できるとは限りません。さまざまな背景から、分かっていても行動に移せない時期もあります。
以前、定期的に栄養相談をしていた糖尿病の患者さんがいました。なかなか療養に前向きになれず、血糖値が安定しない時期が続きましたが、あるとき、それまでとは見違えるほど数値が良くなりました。
「何かあったのですか?」と理由を尋ねると、「実は結婚しました。」と教えてくださいました。さらに、「妻も一緒に話を聞きたいと言っているので、次回連れてきてもいいですか?」とおっしゃり、翌月にはお二人で栄養指導に来てくださいました。
この経験から感じたことがあります。それは、「今できない」ことと、「この人はできない」ことは違うということです。数値がなかなか安定しなかった時期に、できていないことばかりを指摘していたら、患者さんが療養に前向きになったときに、その変化を一緒に支えることはできなかったかもしれません。
患者さんは、数値の中で生きているわけではありません。仕事や家族、生活環境などが変われば、療養への向き合い方や食生活が変わることもあります。
だから、すぐに行動に移せない時期にも、その時点でできることを考えながら関わりを続ける。そして、ときには変化を求めすぎず、必要な情報を伝えながら関わっていく。そんな関わり方も大切なのだと、この患者さんから教えていただきました。
知識を伝えても、すぐに行動に移せるとは限りません。「今できない=この人はできない」と捉えず、ときには変化を急がず、「今の状態の患者さんに合った関わり方」を考えてみましょう。
患者さんと食事について話していると、思いがけず、薬など食事以外の課題に気づくことがあります。
たとえば以前、「1日3回、毎食後」と薬を処方されていた患者さんに食事時間をお聞きしたところ、朝食は10時、昼食は12時、夕食は21時でした。患者さんは食事の時間に合わせて薬を服用していましたが、朝食と昼食の間隔がわずか2時間であったため、薬の種類によっては服用間隔について確認が必要ではないかと感じたことがあります。
また、インスリン分泌を促す薬を服用している患者さんに食事内容を詳しく伺うと、「食事はとっている」ものの、主食を抜いており、低血糖が心配になる状況もありました。そのときは、まず「主食は食べられそうですか?」と伺いつつ、難しそうであれば、処方について医師に相談するなど、その方の状況に合わせて対応しました。
患者さんと話しているうちに、「先生には言っていなかったけど……」と、診察室では話していなかったことを教えてくださることもあります。
そうした話を聞くと、「これはどうしたらいいだろう」と今でも迷うことがあります。でもそんな時、自分一人で答えを出す必要はありません。自分だけで判断しないほうがよいことなら、遠慮せず必要な人につなぎましょう。
これまで勤務したクリニックでは、気になることがあれば、患者さんに「少しお待ちくださいね」とお伝えし、その場で医師に確認していました。「こんなことを聞いてもいいのかな」と迷うこともありましたが、気になったことを医師に確認して、「聞かなければよかった」と思ったことは一度もありません。
すぐに医師や他職種へ確認することが難しい環境では、カルテに記載するのか、電話などで連絡するのか。気になる情報を得たときに、誰に、どのように共有するのかを、あらかじめ勤務先で確認しておくと安心です。
食事の聞き取りで「少し気になる」と感じたら、もう一歩詳しく聞いてみましょう。そして、自分だけで判断できないときに、「誰に、どのように共有するか」を確認しておきましょう。
患者さんから、ふいに聞かれた食べ物について答えられないとき、焦りますよね。
もちろん管理栄養士として、食べ物のことはできるだけ知っていたいですが、実際には知らない郷土料理もあれば、初めて見る商品もあります。知っているはずなのに、とっさに出てこないこともあります。
私も最近、患者さんから食パンを「5枚切りです」と言われたとき、「あれ、1枚あたりの重量がわからない!」となりました。そんなときは、「ごめんなさい、ちょっと調べさせてください」と、明るくそのまま伝えています。
私が管理栄養士になった約20年前は、栄養指導中に分からないことが出ても、手元の食品成分表や資料を頼りにするしかありませんでした。今はインターネットなどを使って、必要な情報をずっと確認しやすくなっています。利用できる環境であれば、その場で患者さんと一緒に調べることもできます。
ただし、大切なのは、「何を情報源にするか」です。
・商品の情報はメーカーのWebサイト
・一般的な食品は食品成分表
・病気や治療に関することはガイドラインや公的機関の情報
このように、「正しい情報を得るにはどこを確認すればよいか」を知っておくことも、専門性の一つだと思います。
知らないことがあっても、無理に取り繕わず、「確認させてください」と正直に伝えてみましょう。あわせて、食品成分表やガイドラインなど、よく使う信頼できる情報源にはすぐアクセスできるようにしておくと安心です。
今回は、学んだ知識を目の前の患者さんに生かすための工夫として、3つの場面をご紹介しました。
・すぐに行動に移せない時期にも、その後の行動変容につながる関わりを続ける。
・食事の話から気になることが見えてきたら、必要に応じて自分だけで判断せず、他職種と共有する。
・分からないことがあれば、取り繕わず、信頼できる情報を確認する。
どんなに勉強や経験を重ねても、迷う場面は尽きません。そんなときに、今回ご紹介したことの中から一つでも、日々の栄養指導に取り入れていただけたら嬉しいです。
管理栄養士の広瀬歩美先生が、継続的な行動変容を支える栄養指導のポイントを解説。
一度で完璧を目指すのではなく、患者さんに寄り添い、共感や労いの言葉をかけることや、「覚えてくれている」という安心感につながる関係づくりの大切さを伝えています。
熊本リハビリテーション病院 嶋津先生監修。患者の食習慣を考慮した個別栄養サポートの重要性を解説。退院後ケアを見据え、入院時に、食事量を増やさずエネルギー補給を支援する方法を提案しています。
医療や介護の現場でエビデンスに基づく栄養管理を行うためのガイドライン(サルコペニア、CKD、褥瘡など)の特徴と活用法を解説。多職種連携や標準化の共通言語として最新情報を活かす重要性を伝えています。
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