栄養管理はあらゆる医療の根幹を成し、適切な栄養管理を行うことで疾患の予防や治療効果の向上が期待できます。ただ、せっかく高栄養価の栄養処方を行っても、患者さんの嗜好・食べやすさやコストパフォーマンスに対する配慮が十分になされていなければ、期待通りの成果に繋げることはできません。こうした点を踏まえ、熊本リハビリテーション病院では、食材の栄養価・コスト・喫食率を意識した実践的な栄養サポートに取り組んでいます。今回、同院における栄養サポートの考え方について解説していただきました。
PROFILE
吉村芳弘 先生(医師)、嶋津さゆり 先生(管理栄養士)、米田巧基 先生(管理栄養士)、松本彩加 先生(NST専従薬剤師)
令和6年度の診療報酬改定以降、栄養管理 の質的な向上と多職種連携の強化に向けた 取り組みが従来以上に評価されるようにな り、回復期リハビリテーション病棟における 栄養サポートにも変化の兆しが見られます。 特に、「回復期リハビリテーション病棟入院 料1」におけるGLIM (Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準を用いた評 価の必須化は、栄養サポートの実践面にも大 きなインパクトを与え、全国各地の医療機関 でGLIM基準が急速に普及しています。 今後、栄養サポートは各施設の収益に直結 する戦略的要素として認知され、エビデンス に基づく評価と介入が従来以上に求められる ようになっていくことが予想されます。
栄養のアクセスルートは「経口」「経腸」「経静脈」の3つに大別 され、その選択を行う際に、従来の栄養サポートでは「経腸か経 静脈か」という点が重視される傾向にありました。しかし、近年 はより実践的な観点から、「経口的に十分摂取できるかどうか」が注目されるようになってきています。経口摂取は最も自然な 栄養摂取方法であり、身体的負担が少なく、患者さんの回復意 欲を高める役割を果たします。食事を通じて必要なエネルギー や栄養素を効率的に摂取するためには、単純に食事提供量を増 やしたり経口補助食品(ONS)を使用するのではなく、患者さん の状態に応じて個別化された食事強化(food fortification)が有用だと考えます。
経口摂取を基本とした実践的栄養サポートにおいては、食材 の「栄養価」はもちろんのこと、「コスト」や「喫食率」に対する配 慮も欠かせません。これら3つの視点を意識した栄養サポート を実践していくことで、患者さんの健康状態や生活の質を向上 させるだけでなく、持続可能で効果的な栄養サポートが可能に なります。 食材の「栄養価×コスト×喫食率」を意識した栄養サポートに 関して、当院の事例を以下に示します。
日本人にとって米飯は主食であり、高齢で食事摂取量の低下 した患者さんであっても、主食に関しては他の食材に比べて多 く摂取する印象があります。そこで、当院では低栄養の患者さ んや経口摂取量が乏しい患者さんに対する食事強化の一環とし て、2012 年より「熊リハパワーライスⓇ」を提供しています。 「熊リハパワーライスⓇ」とは、軟飯(二度炊き)のライスにMCT オイルおよびMCTパウダー、たんぱく質のパウダーを混ぜてエ ネルギー密度を高めたものです。1食分のエネルギー量を通常の 軟飯と比較すると、 「熊リハパワーライスⓇ」では約1.8倍のエネ ルギー増となります。
「熊リハパワーライス®」の大きな利点として、主食のボリュー ムを変えることなくエネルギーアップできること、ライスに混 ぜるだけで誰でも簡単に手早く調理できること等があります。 また、 「熊リハパワーライス®」に利用しているMCTは、消化 吸収が早く、速やかにエネルギーとして利用されるという特性 があり、消化吸収能が低下した患者さんに対しても使いやすい と考えます。加えて、MCTは油脂のため、血糖値の急激な変動 を抑える働きがあります。このため、耐糖能の低下した高齢の 患者さん等にも使用しています。 さらに、MCTオイルは無味無臭であり、食事の風味や食感に 影響を与えないため、普段の食事の中で無理なく継続摂取でき るほか、患者さんの嗜好に合わせて味の工夫や調整を行いやす いといったメリットもあります。 当院の回復期病棟に連続入院した204人の脳卒中患者さんの データを用いた後ろ向きコホート研究では、「熊リハパワーラ イス®」を提供することで体重の増加、ADL(Activities of Daily Living)の改善、入院期間の短縮、経口摂取までの日数の短縮、完 全経口摂取までの日数、最終形態が常食の割合の増加等に関し て改善効果が示されています。 こうしたデータを踏まえ、当院では「熊リハパワーライス®」の 他にも、MCTを使用した食事強化メニューを提供しています。例 えば、アイスクリームにMCTを加えてシェイクにした「熊リハ パワーシェイク」は、1日2食しか食べない方や食事自体を食べよ うとしない方のエネルギー・たんぱく質の確保に役立っています。
食事強化メニューやONSが高栄養価であっても、そのコスト が高い場合には経済的負担が重くなり、継続的な提供が困難に なる可能性があります。限られた予算の中で栄養サポートの効 果をできる限り高めるためには、常日頃からコストパフォーマ ンスに配慮することが求められます。 特に長期的な提供が必要な食材の場合、よりコストパフォー マンスの高い食材を選択することが、持続可能な栄養サポート の実現に繋がります。
食事強化メニューやONSのコストパフォーマンスを評価す る上で、100kcal単価は重要な指標となります。当院で採用し ている経口補助食品(ONS)・栄養剤の100kcal単価を比較し たところ、MCTオイルが最も安価でした。 MCTオイルは、ONSのように味のバリエーションを揃えて おく必要がなく、賞味期限切れで在庫を廃棄することも少ない ため、当院の採用製品の中でも特にコストパフォーマンスの高 い食材の一つだと考えます。
せっかく栄養処方をしても、患者さんが実際に食べていただ けなければ意味がありません。当院スタッフへのアンケート調 査によると、食事強化メニューである「熊リハパワーライス®」 や「熊リハパワーシェイク」などの喫食率は90~100%と非常 に高い一方で、ONSの喫食率は60~90%とやや低めでした。 喫食率が向上すると、栄養士の皆さんが提供している栄養価と の乖離を減らすだけでなく、患者さんに「食べきれた」という自 信が生まれることにもつながります。もしONSを使用する際に は、患者さんの喫食率を考慮し、食べきりやすい少量タイプの ONSを選択する方法もよいでしょう。
たとえ100kcal単価が安価な食材であっても、患 者さんの喫食率が低ければ、他の食材よりもかえっ て割高になってしまう可能性があります。 右の表は患者さんの喫食状況を勘案した、食材の “実際のコスト”の試算例です。「熊リハパワーライ ス®」等の食事強化メニューは他の食材と比較して、 100kcal単価だけでなく実際のコストも安価である ことが分かります。
令和6年度診療報酬改定に伴う制度的な後押しを 一つの契機として、近年、栄養サポートが回復期リ ハビリテーション病棟の収益に直結する戦略的要素 となり得ることが認知されつつあります。 右上の表は「回復期リハビリテーション病棟入院 料1~5」の点数を示したもので、最も高い入院料1と 最も低い入院料5では1日につき約500点(5,000円) の差があることが分かります。 入院料1を算定するためには、GLIM基準による栄 養評価が必須であり(右下の表を参照)、施設によっ ては管理栄養士の配置の調整や教育・研修活動等の 初期対応が必要になるかもしれません。 しかし、適切な栄養サポートが合併症リスクの低 下やADLの改善を通じて、病棟の回転率や施設の運 営効率に好影響を及ぼす可能性を含めて考えれば、 初期対応に伴う負担を上回るメリットが期待できる のではないかと考えます。
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